楡周平さんの長編小説。
昨年末、休みを取ったときに上下巻、一気に読み終えた本。
物語は、主人公:高見洋介が
東洋電器のサンノゼRDセンター閉鎖を完了して
日本に帰るところから始まる。
日本を代表する大企業:東洋電器も、
この苦境を乗り越えるために苦しんでいた。
人事制度の改革、
社員の格付け、リストラ。
同業他社との事業部門の合併による企業の生き残り戦略、
そのあおりを受けた地方工場の閉鎖
社内選抜を経て米国留学、MBA取得、
社内でもエリートとして遇されていた主人公が、
経営戦略策定にも携わる同期:湯下の発言や行動に意見するところから、
懲罰的な人事が行われて
主人公は戦いを始めることになる。
同じ業界、現実に同業他社で起こり、
かつての同僚や学生時代の友人が経験したこととも重なるストーリー展開には、
絵空ごとでない切実感があった。
岩手の工場閉鎖の責任者に任命されて、
地方都市への単身赴任。
ノルマ達成の困難な営業区域を抱える販売子会社への出向。
3年間後に本社に戻れなかった場合は、賃金体系が変わり
現在の65%までの減収に・・
エリートである主人公と
自分自身を比べることはできないけれど、
会社との離別を決断した主人公が、
訪れた外資系の大手人材斡旋会社での面談で
エージェントの丸山から投げられた言葉が痛い。
「学歴、経歴には問題ないが、次の職場が簡単に見つかるかどうかは難しい。」
「最大の問題はあなたの決断力の遅さです。」
外資系企業での勤務経験と、同様にヘッドハンティングでの転進経験を持つ
かつての同僚や友人たちを多くもつ楡周平さんの経験が反映された
言葉なのだと思う。
アメリカからの帰国時、最後に立ち寄った旅での出会いが
きっかけで、高見の大逆転が始まるのだが・・
この数年、そして今年も、
日本でも同じような事態が進むことはあるだろう。
鉄鋼や造船でかつて起ったこと、
身につまされる思いがある。