ひとつのテーマのもとに編まれた連作短編小説集。
軸になる主人公・彼女の周りで、
各編の主人公に選ばれた登場人物たちは、
彼女の10歳から15歳、そして最終章の25歳までの
人生の一部を共有しながら
それぞれの悩みや思いを抱いて生きている人生をつづって
物語が語られていく。
「この本はすごい」、と思った。こんな小説は初めて。
正直、自分にこんなに子供の痛みがわかるメンタリティがあるとは
思っていなかった。
というよりも忘れないもの、というべきかな。
特に、少年たちのコンプレックス故の苦しみは、
痛いほど感じてしまった。
成長して大人になる過程で、いろいろなことを考えて、
強くなってきたと思うけれど、
子供にとって、時間はとても長く感じられて
逃げることもできず、ただやり過ごすことしかできなかった。
そういうものだったと思いだした。
重松清さんの本で最初に読んだのは、教育論について
語ったものだったと記憶している。
本作を読んで、
重松さんにとって、直木賞は「ビタミンF」よりも
こちらで受賞した方がよかったんじゃないかと思った。
そうであれば、もっとこの本を手にとる人が増えただろうし、
この小説でその名を語らえるのは、重松さんの本意ではないだるうか?
装丁もすばらしい。読了後にながめていると、
主人公たちの様子が目にうかぶようです。
この本は、重松さんのマスターピースになると思う。