厳しい競争倍率を勝ち抜いて人気洋酒メーカーに入社以来5年間、
花形の宣伝部で活躍していた主人公が、
全国でビール営業成績最下位の広島支店の営業に飛ばされるところから物語が始まる。
物語のKEYになるのは、表題のとおりビール。
作中でこれからはビールが瓶ビール中心から缶ビール中心に移っていくという
話がでて、いつの時代??と思ったが、
物語の舞台はいまからもう20年以上前のことらしい。
主人公にも若さゆえのとがったところと不思議な分別くささが同居していて
それが変な時代感を作り出している。
作者の略歴をみると、
吉村喜彦さんはサントリー宣伝部勤務を経て作家になったとある。
ちょうど私が16か17才くらいのときに、
サントリーがかわいいペンギンのイラストと松田聖子「スイート・メモリーズ」の
印象的なCMで爆発的に缶ビールのシェアを伸ばして世間の話題をさらったことがあった。
洋酒メーカーとしては一流ながら、ビールでは傍流だったサントリーが
一気にTOPブランドに躍り出た。
(アサヒがスーパードライでキリンを抜くその次の大ヒットはまたその数年後の話。)
この小説は、その発端となる舞台裏?を描いた小説のようです。
(広島をテストケースとしてキャンペーンを展開。
ペンギンは「イルカ」に変わって、作中に登場します。)
あれほどの時代を象徴するようなヒットにもかかわらず、
おそらく若い人は全く知らない(サントリー・ビール)だろうし、
この小説は読む人の年代によって楽しみかたが変ってくるのかなと思う。
最初に、背景を知らないで読み進めている間、
前述した妙な時代感を感じながらも挫折したエリート宣伝マンが
未経験の営業で、卸セールや業務店社長、個人酒店主との交流を通じて
意識を変えていく過程も楽しめました。
最後に、多くの広島支店の社員に見送られて
東京の宣伝部にもどる主人公。
東京へ向かう新幹線、途中駅(主人公の担当地域だった町:福浦)でも
赴任以来、主人公を支えてくれた人たちが1分の停車時間のために
待ってくれている。
会社対会社というよりも、仕事を通じた個人のつながりに
価値があるということも、隠れたメッセージなのかもしれません。