映画化もされた前作「嫌われ松子の一生」で、
松子の人生をふりかえる案内役をつとめた甥の川尻笙と元恋人・明日香の
4年後の青春を描いた小説。
24歳、自分にとってはもうずいぶん前の年令になるが、
夢や希望や、それにむかっての煩悶にはすがすがしい印象をもった。
半分電車のなかで読んだあと、就寝前に最後まで一気に読み終えました。
明日香が通う医大がある佐賀、笙の故郷の福岡・大川市、それに熊本も舞台として
登場するのは、嬉しいおまけ。
前作を読み終えたときは、最後、電話できた後の松子の新しい別の人生が
想像できて、それが強い余韻を残していた。
本作の中で、同じことを笙が松子の友人の沢村社長に語るシーンがあって、
救われた気がした。
(何はともあれ、校長が許せないという怒りはずっと残っているが)
二人の主人公の現在について、演劇の技術(声のベクトルのコントロール)や、
医学生の授業、ファミリー・プラクティスなどについて詳しくて、
それがこの物語の現代・現実のリアリティを高めている。
最初は山田宗樹さんの、個人的なバックボーンのせいなのかと思っていたら、
巻末に多数の参考文献が一覧されていて、
調べて、学習して、その成果が小説の完成度につながる、そんな成果だと知った。
プロフェッショナルの仕事とはこうあるべきなのだろう。
冒頭で明日香に強い印象を残す安藤加津子医師や
明日香がアメリカ臨床留学を考える契機になる兼子猛医師の話、
それに笙が出会うミックや遥太郎など、
作中のプロフェッショナルにも感銘を受けた。
見習わなくては。
物語の中盤で、明日香に友人の本堂玲子が医者になりたいという動機を語る
シーンがあるのだけれど、共感してしまった。
同じものが欲しいわけではなくて、
影響されない、侵されない強さを得たいということ。
力などなくても、そうなれれば良いのだけれどね。