萩原浩さんの作品は、最近「明日の記憶」/「さよならバースディ」を読んだばかり。
守備範囲が広いなとつくづく思う。
本作は、物語中盤までせつなく悲しい。
もと銀行員、タクシードライバーの主人公が、
高いプライドを抱えて想像の世界に身を沈めるシーンが切ない。
リストラも人生のやり直しも若ければ魅力的なイベントになるのかも
知れない。けれど40歳を過ぎると意味合いが変わってくる。
家族の存在も、良い影響も悪い影響も重みがちがう。
物語後半で、主人公は仕事上で好成績を上げる過程で、上昇のきっかけをつかむ。
選ばなかった道(選択)も、薔薇色でないということを知る。
心で見下していた同僚たちがそれぞれ深く大きな人生経験を
もっていることにも気づいた。
ただ、実際に物語で明るい救いを見せてくれたのは、妻や娘・息子との
かかわりの変化だったと思った。
(主人公の考え方が変わったことで、見えるものが変わっただろうけれど。)
たぶん、上司へのあの言葉をいわなかった人生よりも、
幸せになれる予感をもたせて物語はつづく。
単純に楽しめない悲しさもあるけれど、深い。
読む価値がある。