読者の口こみによって評判が広がり、17言語、37カ国で翻訳出版されて
500万部以上の販売総数を誇る本格的歴史・恋愛・冒険ミステリー。
あとがきにて、訳者:木村裕美さんによるの思い入れあふれた
解説が楽しめます。
スペイン・カタルーニャのバルセロナを舞台に、
1945年、10歳の少年ダニエルが出会った一冊の本をきっかけに
物語が始まる。
物語の舞台になる時代のスペインは、私の生まれる前だが、
いま(現代)につながる確かな存在として情景が浮かんできた。
今まで読んだことのない舞台(時代や国や世相)の小説に初めてふれるときは、
少々戸惑いを覚えることがある。日常とはちがう世界に心がTRIPする、
それが少年時代から本を読むときの魅力のひとつなのだが、
もう長い間こんな感覚は味わっていなかった。
上巻を読み終えたときには、淡いセピア色のロマンチックな冒険譚になるのかと思った。
下巻にはいり、ダニエルとフリアン・カラックスの人生が絡みあい時間を越えて
事件がふたたび動き出すときには、
ダニエルやフェルミンと一緒にいるような緊迫感さえ覚えた。
フメロのような存在への恐怖感は、普遍的なものがある。
だからこそ、
リアリティを損なうことなくフリアンやヌリア、ミケルの壮絶な人生を
受け入れられたのかもしれない。
最終章の平和な営みは、対照的にやわらかい陽の暖かさに満ちている。
友情や親子の愛、それに恋人(妻)への愛情、
つまりは、それも普遍的なものだということを感じさせてくれた。
作中作をモチーフにした小説は、いくつも読んだことがあって、
凝ったしかけに緻密な構成と、それをFinishさせることの困難さには
敬意をはらうべきだと思っていた。
だがこの小説を読んで、
作中作(厳密には少し異なるのだけれど)を選ぶ必然性があった小説は
この本がはじめてかもしれないと思っている。