第52回(2006年)江戸川乱歩賞受賞作。
主人公:内村実之は1高受験をめざして、
そして「三年坂で転んでね」という言葉を残して死んだ兄の
東京での行動の謎を探るために上京する。
舞台となる時代は明治後半、
ドラマや小説などでも焦点のあたりにくい間隙の時期であり、
書き込まれた当時の東京の世相などは、興味を引かれた。
都市論として江戸(東京)を語る試みは、島田荘司さんや石川英輔さんに
すぐれた著作があるが、坂の都市というまた新しい
視点は新鮮。
それがこの小説の一番の肝。
変化の激しい東京で、何年も前の地図を片手に
「三年坂」を探してまわる実之の姿には、
かつてファンタジーノベル大賞受賞作の「武蔵野鉄塔線」を読んだときと
同じような探求心が刺激される。
ただ、巻末の選評で何人かの評者もコメントしているように、
見えない・解けない謎に、伏線が重なる展開に
フラストレーションがたまる。
終盤、すべてが急展開して、
そしてばたばたとパズルのピースがはまるように事件は解決する。
これがマラソンなら、ペースランナーに振り回されてへろへろになって
ゴールであえいでいる、そんな印象だった。
ちがう題材を舞台にしたときに、早瀬乱さんはどんな小説を書くのか?
期待したい。