村上春樹さん本人の体験した二つの不思議な話と、
友人から聞いた話を紹介する「偶然の旅人」を
イントロダクションにする5編からなる短編集。
奇譚集と謳っているように、どこかで起きていそうな
不思議な話がつづられています。
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
最後に、書下ろしの「品川猿」で、
『神の子供たちはみな踊る』に収録されている
「かえるくん、東京を救う」を彷彿させるような
村上春樹さん独自の不思議な世界が提示されて
締められます。
村上春樹さんの小説を読むと、
とてもニュートラルな感覚を取り戻せるように感じる。
忙しい日常生活を送っているなかで、だんだん心の余裕が
なくなっているときに、直接的ではなく自然に
解放されていくような効果があると思う。
本作に収められた作品は、
従来の長編作品よりも独特の村上春樹色は薄まっているような気がしますが、
「海辺のカフカ」以来の感覚を味あわせてくれました。
このラインの新しい短編集をまた読んでみたい。