第一回パピルス新人賞を受賞した作品に加筆・修正を加えた
久保寺健さんのデビュー作。
小学校を卒業した後、中学校には行かずに
生まれ育った公団団地の中だけで暮らし続けることを
決めた主人公:渡会悟。
同じ団地に住んでいる小学校の同級生107人が、
少しずつ団地を離れていく中での団地での生活。
最初は団地内のコミュニティセンター(コミセン)で本を読んだり、
体を鍛えたり。
無登校のまま中学校の卒業証書を受け取ってからは、
団地内のケーキ屋タイジロンヌで働き始める。
団地の中で恋もして、婚約もして。
小さな世界でも時間は進む。
最初は、シチュエーションを決めて書き始める
コミカルな小説かと思っていた。
何故、悟が団地の外へ出るのを止めたのか?
その原因となる事件を知らされて、
”ちょっと変だよ”という悟の行動への正直な感想が、
少しずつ別の何かになっていく。
古くなっていく団地の変遷と、
大人になっていく悟の周りで変っていく世界。
何故体を鍛えることにあれほどこだわったのか・・・。
誰かを守るために勇気をふりしぼった一歩。
そして、悟の中で何かが変った。
看護師とて働く母親のヒーさんが倒れたことを聞いて、
悟は”あの事件”以来初めて団地の外へ出る。
翌年、母の遺骨を故郷に散骨するために
30才(小学校を卒業後17年目)にして、ついに
団地を去るシーンで物語は終わる。
おもしろかった、
そうシンプルにいえるような小説ではないけれど、
せつないような青さと、時間と勇気で勝ち取った何かが
心に残る小説です。