馳星周さんの新作長編。
主人公の元刑事:徳永
(今は警察を辞めて土地で作った莫大な借金を返すために
弁護士事務所の調査員として働いている。)
警察庁刑事局局長の井川に呼び出され、
娘:菜穂の失踪の調査を依頼されるところから物語は始まる。
ボディピアスに上質な皮革サンプル。
有能な元刑事は、わずかな手がかりから
確実に真相に迫っていく。
刑事警察と公安警察の確執、
政治家も絡めて、権力闘争の前にタブーはないことが
徳永の口から何度も語られ、そしてそれが事実として
物語が進行していく。
その前ではブルー・ローズやボン・ニュイなどの
刺激的な仕掛けも途中からただの取引材料のひとつとして
色あせていく感じさえする。
エリート官僚たちの様は論外としても、
田中美代や井口菜穂、英や母:井口佳代にも
だんだんあきれた思いが強くなっていく。
(振り返ってみれば、菜穂の亭主:山本が
もっともまともな人だったかな。)
その中で徳永の醒めたようでいて矜持を保った様は、
唯一救いを感じさせる存在だった。
警察に残るかつての同僚や、おなじく警察を辞めた男たちとの
関係も小気味よく
「不夜城」などのクライムノベルとはちがった新しいタイプの
小説を歓迎していた
..のだけれど
上巻が終わる頃に、ほぼすべてのピースが出そろって
下巻一冊の分量を残していることに
どう展開するのか?と思ってはいたのだけれど
菜穂の友人:菅原舞の監禁、そして救出劇でのなかでの悲劇。
突然、徳永が暴走し始めて
物語が変ってしまった。
こうなれば、もういくしかないし、
それにラストシーンも唯一意外性をかもし出すために
とり得るクライマックスかもしれない。
これがこの小説の目指すゴールだったのかは、疑問を感じた。