精巧さでかつて世界を震撼させた北朝鮮の偽札「スーパー・ダラー」。
米国がそれらの偽札対策のために、威信をかけて刷新した新100ドル紙幣の発行から
わずかな時間で出回り始めた超・精巧な偽札が本作のkeyになる「ウルトラ・ダラー」。
国際諜報ものとしては、一見して本の厚さも控えめでそれが
少し興味をそいでいた。(2段組でもない。)
特に諜報もので日本人を主人公クラスに絡めようとすると、
架空の諜報機関を創設する必要があったりして、その手際を誤ると
かなり興ざめする結果になってしまう。
本作は、その手際がすばらしいと感じた。
作者の手島龍一さんはNHK前ワシントン支局長を経て2005年独立した外交ジャーナリスト。
自分自身の感覚をうまく小説に転化できているのだと思う。
おもしろかった。
偽札造りを中心においた真保裕一さんの「奪取」とくらべて、
その技術的な興味が薄みになるのは仕方ないが、
長い時間をかけて周到に準備されていく過程など物語のリアリティを高めている。
北朝鮮については、ごく近年の史実が小説の中に違和感なく盛り込まれていて、
現実と物語が融合していく。
北の核武装ということが物語のバックボーンとして重要なKeyになっている。
今朝、未明の地震(千葉南震源M5)で眼が覚めたのだけれど、いつもと違い
細かい周期の横揺れだけが長く続く状態が続くうちに、急に不安になり
核攻撃を受けたのではないかとあわてて跳ね起きてTVをつけてしまった。
現実に北朝鮮が核実験をしたということが、本当にパラダイムを変えたのだと
実感した。
もう少し時間がたてば、本書のこの感覚は味わえなくなるかもしれない。
早めに手に取ることをオススメします。