現在の北朝鮮を舞台にした帚木蓬生さんの渾身の一作。
新聞や週刊誌の書評を読んで手にとったが、
実際に著者渾身の作だと思った。
(読み終えるにもずいぶんかかりました。)
主人公は、日系ブラジル人医師の津村民男、
そしてかつて別の事件を共にのりきった北園舞子、
韓国人の李寛順(イ・カンスン)、
寛順の死別した恋人の弟、東源(トンウォン)。
それぞれの立場・ルートで北朝鮮にはいった彼(彼女)らの
北朝鮮での経験の描写のディティルがかつてない
質感をこの小説に与えている。
重要な役割をになう関係者の存在感も大きい。
平壌産院で津村と一緒に働く同僚たち。
脱北者であり韓国で成功した企業家、姜成良(カン・ソンリャン)
北朝鮮に残るかつての革命の貢献者でもあるその父親、
日本で成功した在日朝鮮人の平山会長、
北朝鮮内で寛順・東源を手助けする南玉順(オクスン)、それに道満(トマン)。
それぞれの人生が絡みあい、ひとつの行動に結実する課程には
引き込まれるものがあった。
彼らを遠くから結びつけることになる
小学校教師:南良健(ナムリャンゴン)の振る舞いや言動には
心動かされるものがある。
村上龍さんの「半島を出よ」も、衝撃的な作品だったが、
本作は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のまた別の見方を提示している。
(こんな見方はしたことがなかった。)
実際、かなりの問題作だろうとは思う。
(その割には話題なってないのは、なにかあるのだろうね。)
一読する価値はあります。