ニューヨーク・マンハッタン島
摩天楼の不可能犯罪に時間を越えてキヨシ・ミタライが挑戦する。
島田荘司さんの新作はここ数年、コンスタントに発表されているが、
このラインの長編としてはひさしぶりかもしれない。
正確を期した史実(歴史)や高層建築群の発達過程・建物、モニュメントなどの
記述が物語のリアリティを積み上げてまたひとつ質感の高いエンタティメントが
完成したと思う。
物語の中で個人的に印象的だったのは、
1916/1921年当時、事件を担当したNYPDの
元刑事を御手洗潔がたずねる場面。
80才に届こうとしている独身・一人暮らしのかつての腕利き刑事。
プロフェッショナルな仕事をしてきた男が、いまだに
未解決の事件を心に抱えている。
その生き方が魅力的で心に残った。
3Dカラー図版が豊富に挿入されている。
写真や写実的なイラストでないことでかえってイメージが
広がる部分もあるかもしれない。
謎の解明、そして真相。
N.Y.の摩天楼、そしてこの時代だからこその奇跡のトリック。
奇しくも、
ライブドアショックで日本市場が混乱している中で読んだ本作中で
NY大恐慌前の株式市場の熱狂ぶりが言及されているシーンがあって、
不思議な同調性を感じた。
今のこの時の東京も、特別で魅力的な舞台として
数十年後に小説中に登場するようになるかもしれない。
ところで、
本作では、御手洗潔はコロンビア大学の助教授として登場するのだが..
巻末のNY摩天楼史-年表をみて気がついたけれど、
これは、まだ御手洗潔が若い頃?の物語なのか..
それなら、この時代の彼の活躍はまだこれからも新作小説で読めるかもしれない。
巻末のあとがきに、島田荘司さん本人がこの物語の着想を得たときの話や
小説として結実させるまでの過程を詳しく説明してくれています。
ファンとしてはうれしい。